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これが自分スタイル-天に昇る龍のように私もとことん昇っていきたい

天に昇る龍のように
私もとことん昇っていきたい

nakamura_02_1.jpg中村 龍広 さん

【PROFILE】なかむら たつひろ(57歳)
1952年生まれ。久留米市荒木町出身。筑後市在住。5年前に脳梗塞で倒れ右手が不自由に。2年程前から火曜、土曜に『いきいき野中デイサービスセンター』にリハビリに通い、昨年6月から左手での絵に挑戦。

 「中村さん、一緒に描きましょうよ。大丈夫、左手で描いたらいいんですよ。絶対描けるから」
 『いきいき野中デイサービスセンター』主任の佐藤さんのその言葉で、再び鉛筆を握った中村さん。
 「時間はかかったけれど、久しぶりに絵を描けて嬉しかったです。出来上がった時にはスタッフの皆さんがすごい!と言ってくれて嬉しかったです。続けて下さいよと励ましてくれました」
 左手で初めて描いた花菖蒲の絵は、とても色鉛筆とは思えないほど色鮮やかで細やかな柔らかさがあった。
「庭に咲く花菖蒲を見て、この花ええなーと思い写真を撮って描いたんです。出来上がった絵をスタッフの方々に褒められ、左手でも描けるんだと自信ができました」
 中村さんは、中学の頃から絵を描くのが大好きだった。とくに似顔絵の水彩画を得意とし、描いて人にプレゼントするのが好きだった。「おまえ、美術学校に行けや」と、先生に言われたほどだったが、家庭の経済的な理由で断念し、それでも趣味で描き続けた。
 五年前、仕事中に脳梗塞になり倒れる。その後、当時住んでいた山口から久留米に戻り、妹さんの家に住んでリハビリに励んだ。「右手が動かないから絵を描くのはだめだ……」。趣味で描くことさえ諦めた。
 昨年から一人暮らしを始め、一人で静かに過ごす時間も増えた。そんな時だった。右手でなくても絵は描けると、佐藤さんをはじめスタッフの方が声を掛けてくれたのは。
 「右手では何でもないことが左手では難しいんです。絵を描き始める前に、まずは左手で線を書く練習を一週間ぐらいしました。左手で絵を描くと、描いた線が手で隠れて見えないんですよ。色を塗る時は消しゴムで消せないので失敗はできない。線からはみ出さないように、息を止めてゆっくり時間をかけて塗っていきます。絵の具と違って色鉛筆は色が薄く、濃く塗るためには力を入れて塗らないといけなくて手が痛くなります。すぐ鉛筆の先が丸くなり頻繁に削がねばなりません」
 一枚の葉っぱを描くにも二~三時間かかるという。少しのはみ出しもブレもないよう心は左手に集中。「絶対に失敗したらいかん、絶対に仕上げんといかん……」。そう思う一方で、なかなか思い通りに描けない。イライラする時は休憩しながら。けれどまたすぐに描きたくなるという。
 「絵は自分にとっては挑戦です。描き上げないと許されない一つの意地です。失敗したらすぐ破り、一つを仕上げるのに二~三十枚破ります。たとえ色まで塗って半分以上出来上がっていても……。何度破ってもそうまでしても描くことを諦めないのは、自分が絵を好きだからでしょう。その気持ちを何年振りかに思い出させてもらったからです。絵を描く時は、他のことを一切考えないでいいので心が楽になります。これまでの辛かったこと、困ったこと、病気になったことも描き始めたら関係ないんです。一つの絵が仕上がった時、自分の一つの挑戦が終わったなと思いますね」
 一つ乗り越え、一つ作品が出来上がる。絵を描き始めた昨年の夏から、作品は五枚に及ぶ。中村さんの自分への挑戦は続く。

挑戦を支える思い

 十二月には、同センターの協力により津福郵便局にて個展を催した。
「自分の絵が飾られるなんて。とても嬉しかったです。訪れた人の感想を読んだら涙が出ます」と、感想が書かれたノートを開きながら、中村さんの目は潤んでいる。「励まされました」「感動しました」と、ノートに綴られた言葉。彼の中での『挑戦』である絵の向こうに、必ずあるのは人への思いだった。
 「病気になって涙が出やすくなったように思います。病気の自分は到底相手にはかなわないという惨めな思いや、小さい頃からの辛かったことが浮かんで涙が出てくるんです。そのため、人と話すのは好きではありません。けれど、今回の個展で自信ができました。再び絵と出会えて本当に嬉しかったです。佐藤さんやスタッフの方々が勧めてくれなかったら、もうずっと絵を描くことはなかったでしょう。皆さんに出会えて感謝しています。私の絵を見て誰かが喜んでくれたらそれでいいんです。同じように障がいを持った方達が、私の絵を見て『よーし、僕達も描こう!』と思ってくれれば嬉しいです」
 そう言って、中村さんは一番好きだという龍の絵を膝に抱える。仕上がるまでに一ヶ月かかったという。
nakamura_02_2.jpg 「この龍の絵が一番気に入っています。雲の中を舞い天に昇る龍の姿が好きです。私もとことん昇っていきたい」
 中村さんの名前も龍。吸い込まれるようなピンクや黄色の明るい色彩の中を二匹の龍が雄雄しく舞っているその絵は、全てを受入れ進もうとする希望に満ち溢れていた。

文/森 志穂
写真/小原 亮

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