おもてなしを追求お客様の「いいね!」の声が私を成長させてくれる
『とうふ処 梅乃家』女将 牟田 博子さん
【PROFILE】むた ひろこ
1948年生まれ。八女出身。三潴在住。1978年に篠山町に店をオープン。1991年に現在の場所に移転。仕事後、夫婦での夕食が唯一の楽しみ。お酒も少々……。現在、梅乃家ホームページ内のブログで奮闘中。『とうふ処 梅乃家』城南町21-9 問/0942-35-0603
おもてなしといえば、定評高いのが豆富料理を続けて三十二年目の梅乃家。女将・牟田博子さんは、「大切な時間を割いて来て下さっているお客様が、気持ちよく心地よく過ごしてお帰りいただくのが最大のおもてなしです」と、話す。
それは、この店で働くスタッフも同じ気持ち。お客様一人ひとりの苦手な食べもの、好きなビールの銘柄などお客様の特徴を知り、嫌いなグラタンの変わりに茶碗蒸しを出すなど、常にお客様の立場になった接客が伺える。
厨房では、器は汚れていないか、欠けていないか、料理は冷めていないか、盛り合わせ方はどうか、運ぶ時間はちょうどよいか……常に女将さんがチェック。それでもうまくいかないことがある。
「料理は一番良い状態で召し上がっていただくことが大事です。スタッフも私の気持ちをくみ取ってくれて、おもてなしの心を大事にしてくれています」
そして、もう一つの大事なおもてなしは、
「裏でどんなに忙しくても、お客様の前では心から気持ちのよい笑顔で」
店内には季節の雰囲気を醸し出すしつらえ、今の時期は愛らしい蛙も飾られている。そして、女将さん手描きの絵、和の情緒を漂わせる刺子のタペストリー、玄関や各テーブルに季節の野花が、決して派手ではなくさりげなく飾られている。
「食事だけではなく、楽しむ空間をつくるのが私の役目だと思っています。お客様から『あらー、かわいいねー』と、喜ばれる言葉が聞かれた時、よかったなと思いますね」
乗り越えられるのは
「お客様に喜んでもらいたい」
の思いから
全部で二十五箇所にも飾られた花は、かつてはいけ花の先生に依頼していた。しかし、三ヶ月程で辞められ、明日から二十五箇所を全部自分でいけなければいけない……女将さんの仕事がまた一つ増えた。
「でもピンチはチャンスなんですね。窮地に追い込まれると、何とかなるものです」
知人に事情を話すと、茶花を扱っている花屋に連れて行ってくれた。そこで目にしたのが、壁にかけられていたそそとした花だった。
「あー素敵!私がいけたい花はこれだと思いました。」
それからさっそく茶花を習い始めたそうだ。毎朝花を集めるのが日課。夫婦で山へ行くこともしばしば。
「十一時の幕が開くまでには全箇所の花が入っていないといけないんですよ。続けることって本当に大変だなと思います」
約二十年間、店の各箇所に女将さんの優しさがしつらえとして息づいている。
こんな店の魅力に惹かれて、結婚記念日、誕生日、お節句、お宮参り……そんな記念日に訪れるお客様も多い。そんな時、女将さんは手描きの絵をプレゼントしている。店の仕事の合間、少しの空き時間を利用して描く。淡い水彩のタッチは温かく優しい。
五~六年間、本を見ながら独学で描き方を学び、最近は絵手紙を習い始めた。当初、稽古のつもりで和紙に絵を描いて胡麻豆富や持ち帰りの品を包装していたこともある。
「記念日のために何かできることをと思って、シーンに合わせた絵を描いてプレゼントしています。上手には描けないけれど、『うわー、いいね』とお客様がおっしゃるような絵を描きたいといつも思っています。
でも、行き詰まる時もあるんですよ。それでも乗り越えられるのは、『お客様に喜んでもらいたい』その思いだけです」
「お客様に良いものを出したい」、厨房に立つ息子も思いは同じ。なのに、それぞれの思いが強くて料理のことでしばしばケンカになる。
ある時は、ケンカをして出て行ったこともある。どこに行こうかと考えているうちに、「そうだ、お客様にプレゼントする絵の材料を買わなきゃ」……気づけば店に入っていた。
「結局、出て行ったのは三十分だけ。こっそり帰ってきて絵を描き、普段通りの仕事に戻る始末です」と、女将さんは笑う。頭の中にあるのは常にお客様が喜ぶ顔。
「お店のしつらえ、絵を描いたり、それらは結局、お客様の時間を大切にするということでもあり、お客様を喜んで迎えられるという自分自身の安心でもあります。お客様の『いいね!』と言われる言葉によって、こうして私は育てていただいているなと感じます」
そこには、おもてなしの心が導いてきた女将さんの人生があった。
※梅乃家では『豆腐』ではなく『豆富』と表現しています
文/森 志穂
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