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新・落語スズメvol.21

『談志の遺言』

文/松田 一成

『〜来たことを後悔するようになればいい』と県境に関所を設けた県知事さんの発言を聞いた。『けしからん』というのは簡単だが、『もっともだ』という意見は口には出しにくい。子分を守る親分としては理解できなくもないところ。まあ、それを口に出すところが、追い詰められているのだなとアタシは同情的であります。そんな発言の真逆のセリフを思い出した。20年前くらいだろうか。志ん朝、笑点クラスの噺家でさえ、ホールを満杯にすることが難しかった落語低迷期。九州のこんな田舎にその噺家が来るというので小躍りしてチケットを求めた。待ちに待った当日、会場が変更されていた。1000人超の大ホールから500人弱の小ホールに。その客席の半分も埋まっていない。高座に上がった噺家は会場をぐるっと見渡し、今にして思えば、その時覚悟を決めていたように思う。有名人であるその噺家への大袈裟な拍手で始まった独演会。一所懸命、笑いを探す客。始終不機嫌な噺家。会場は期待と違う雰囲気に明らかに戸惑っていて、奇妙な時間が流れていた。見切ったのか、その噺家『今日、ここに来なかった奴を後悔させてやる』。『芝浜』を唐突に始めた。内容は割愛するが、追い出しが鳴っても、会場嗚咽の嵐。誰もしばらく席から立ちあがれない。アタシにとっては落語に対する人生の転機となった会でした。『ここに来なかった奴を後悔させてやる』ということは、そこに居合わせたアタシたちは、『落語のすばらしさ、言葉の凄みを、周りに伝えなさい』という使命をその時受けたのだと思う。あれから随分時間がたった。時代や価値が変わりつつある。落語、ひいては芸術を取り巻く環境はどこまで厳しくなっていくのか想像できない。でもあのガラガラのホール落語の時とは全く違う。客が来ないのではない、行かれないのだ。希望はいくらでもある。もう少しがんばりましょう。

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