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落語スズメ Archive

落語スズメ 第五十六回『カチョウガクル』

松田 一成

規模が毎年大きくなってます。今年で4年目『博多天神落語まつり』。10月29日から31日までの3日間、東西選りすぐりの噺家が40名、5つの会場、全29公演というからものすごい。先日よりチケットも販売となり、2ヶ月先のスケジュール、お悩みの貴兄も多いかと。アタシもそんな一人。地元新聞社に貼られたポスターを見るとあの人の顔が。最上段、春團治師と三枝師の間に、カンカン帽をかぶった、眼鏡でチョビ髭の男。『ボインはぁ赤ちゃんが吸うためにあるんやでぇ、お父ちゃんのもんとちがうのんやでぇ~』ご存知、月亭可朝。40年前なんですね、『嘆きのボイン』。以来、テレビを騒がせ、週刊誌を乗っ取り、つい最近も新聞ダネになっておりました。(都合により内容は一切割愛させて頂きます。)この人は果たして落語家なのだろうかという疑問を持ち続けながら今日迄、やっとこの日が(笑)。可朝師の伝説は、枚挙にイトマが無いのです。まずこの師匠バリバリの関西人の風でありながら、横浜出身といううわさ。今年72歳の年男、生年月日があの志ん朝師と全く同じ昭和13年3月10日。二十歳の頃、大看板三代目林家染丸に入門するも(当時は染奴)女性問題の誤解がもとで破門。だがすぐに、同情した人間国宝桂米朝師にすくわれ、小米朝の名をもらい、後、月亭可朝。実は米朝一門の総領弟子なのである(まあ実際はざこば師ということになっているらしい)。売れまくっていたのだが、談志師が国会議員選挙に出ると聞いて、なら自分もと出馬。見事落選。芸人さんが出馬した時のお約束、高速道路で選挙カーを走らせていたとの元祖はこの師匠。いろいろありまして保釈後のキャバレーでの営業、看板に『野球賭博でおなじみの月亭可朝来演!』。ガンの疑いで観念した可朝師、その事を奥さんに告げると、奥さん『今死なれたらこまる、せやけど生きられても困るし…』もちろん検査結果はガンではなかったのだが。そんな話ばかりがある可朝師の芸に談志師いわく、『ものすごくいい』。気になるでしょ。そんな師匠をここ福岡で見ることのできるチャンス。お悩みの貴兄もご一緒に是非!

落語スズメ 第五十五回 「鬼献上」 

松田 一成

知り合いの若い杜氏さんがゲストでいらっしゃるという春吉での落語会。噺家さんを囲み、その杜氏さんが醸した酒を頂きながらの会だそうな。いわゆる、酒と噺のコラボというやつですな(笑)。早速の参加表明。お店の方の手際の良さで先ほど迄の寄席風情がすっかり酒席に早変わり。師匠も私服に着替えられビールで乾杯。後は可愛い小鳥の柄の入ったお酒を素敵な料理と呑み比べ。至極贅沢。若干鼻の下の伸びたオッサン約一名は周辺調査から始まりました。着物女子率タカシ!。会を告知して2、3日程で満員になったと伺いましたが、さすが博多、アタシのとなりのカンザシをさした女性は長唄のおっしょさん。噺家さんのお唄いの先生が高島屋だということが判明してから、盛り上がる、盛り上がる。役者と噺家こんなに違う話、『さだんじ』のだん違い、立川左談次師の楽屋占拠事件、楽屋入りを間違えて市川左團次丈の楽屋へと‥。もうそれはそれは(笑)。とりとめもない噺家、杜氏、着物女子との懇談タイム。いつしか話題は斜っかいの浴衣姿の女性の帯の話へと。男帯でもおかしくないような柄行きの博多帯を粋に着こなしてらっしゃるその方を見て、噺家一言。『噺家の帯も博多献上帯なんだよ』と。浅草にある極々小さな店でそれは売られていて、自分が噺家だと名乗ると、奥からそれ用の帯を持ってきてくれる。『鬼献上』と言われて、普通のものより細身に誂えてあるらしい。安い物ではないので、初めて買った時はうれしかったとも。また、上京の折はその店に寄ることを楽しみにしている関西の師匠方も多いとか。ふとしたことから、博多と噺家の意外なつながりがわかって、一同大感激。なんと最後には、特別な情報筋よりその帯ををつくっているところまで判明!恐るべし着物女子ネットワーク。とりとめもなくそんな会話をつなげながら、博多の夜は暮れていくのでした。で、件の若い杜氏さんはどうなったか?『酒は60の純米だ!』と符丁のようなことを叫びながら、着物女子には目もくれず、師匠とタクシーで消えていったのでした。

落語スズメ 第五十四回 「あんみつ姫にて」

松田 一成

黒鳶色に櫨染の縞、大きな勝ち虫をあしらった柄行きが、色白の肌に緊張感をもって高座へと送り出す。結界を張った表情は、ちょっとだけ口元を引き締めたように見えた。『快楽亭ブラック毒演会』梅雨空のご機嫌を伺いながら日曜昼席となった。『二代快楽亭ブラック』、談志師に入門後、芸歴40年を超えるが、今は故あって立川流を自主退会。日本人と白人のハーフ。聖域なき表現者あるいは性癖多き具現者か。落語界の異端、芸人の生き様。どこまで書いていいのやら。会場はブラック師が福岡で会をやるならここしかないでしょう、親富孝通り天神シネマ近く『あんみつ姫シアター』。100人超の定員が満席。舞台袖近く迄の客入り。恐いもの見たさ、初物好きの天神っ子の心意気、美しい女性の姿もちらほら。みっちりブラック節を唸った後、本寸法『英国密航』。若き日の長州の侍達を描いた、平成12年第55回文化庁芸術祭優秀賞に輝く珠玉の一席。佐幕だ、尊王攘夷だとゆれ動く幕末期、いずれ戦うことになるだろうという英国に、長州藩の特命を帯び、井上聞多、山尾庸三、野村弥吉、遠藤謹助は密航を企てる。とりあえず江戸に行ってみたものの、イギリスをキリギリスと勘違いする始末。仕方なく新知識の持ち主と噂される足軽身分の伊藤俊輔(後の伊藤博文)を尋ねるが、自分も連れて行けば英国へのツテを紹介していいと。多少こころもとないやり取りの後、マジソン商会ガールさんとその奥方の機転もあり見事英国に渡ることとなる。晴れて渡航に成功した一行五人は霧の都ロンドン、蝙蝠傘をもって橋の上で感慨に浸っている。そこにテロリストと勘違いしたスコットヤードがなだれ込んできて「フー・アー・ユウー?」「問われて名乗るもおこがましいが、生まれは長州山口在、異人を見れば斬口刹鬼と、尊王攘夷の旗印、しばらく巻いて船に乗り…」ご存知白波五人男に例えたのである。お見事。もとは講釈、浪曲ネタだったそうだが、そこを師が落語に発展させた噺。拍手なりやまず。続けて珍品『紀州飛脚』カケません(笑)。仲入り後『道具屋・松竹篇』荒川区三河島のボロアパートで暮らす親子三人の物語『名字無き子』のあんこ入り。カケません(笑)。ヴィトン柄の手拭がチャーミングでした。是非定例会にして下さい。

追伸 
第47回オトナ寄席!7月23日
『立川生志』! 今回ネタおろし!
午後7時より。
琥珀亭 0942・38・0570
是非!

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http://www.kumin.ne.jp/cofacoo/

落語スズメ 第五十三回 「東京かわら版」 

松田 一成

6月第1週の月曜日(今年は7日)は『寄席の日』。寄席発祥の地とされる台東区下谷神社内で、初代三笑亭可楽が1798(寛政19)年6月、「風流浮世おとし噺」と看板をあげたのがもとだそうだ。当日は東京都内の4つの定席と国立演芸場の入場料がほぼ半額、おまけに竹製の団扇まで配ろうというのですから、なかなかのお楽しみ。団扇の図柄は毎年違うのですが、今年は笑点おなじみ春風亭昇太師デザインだそうで、自称落語マニアとしては是非押さえておきたい逸品(笑)。普段上がることのまず無い『上野鈴本演芸場(落語協会の興行だけで、昇太師の所属している落語芸術協会の興行はありません)』でも配られるというのですから落語界の懐の広さを感じます。そんな情報をひっくるめた、毎月楽しみにしている雑誌があるのです。その名も『東京かわら版』420円。手帳を一回り大きくしたサイズ、100ページ程ではありますが、副題には『日本で唯一の演芸専門誌 落語 講談浪曲』。巻頭エッセーから始まって(今月はクラリネットの北村英治さん)、好評連載、読み物充実、執筆者の中には、ゆとりの父ことあの寺脇研氏のお名前も。圧巻はその情報量。寄席の番組を中心に、東京近郊で行われる会を網羅。出演者別、開演日時別に検索機能つき!(ちなみに6月は約630会場!)。テレビ、ラジオの演芸番組情報。おまけに広告の殆どが落語会の告知やCD発売だったりで、一分の隙もない編集体制。今月号で通巻438号、実に37年目、まさに演芸界の総合情報誌。ご家庭に常備されますと、すみやかに現実逃避が可能。自分がこの日東京に居たらと想像するだけで夢の世界に浸れます。ちなみに6月7日だったら新宿末広の昼席で種平師のトリを楽しみに、寄席の日団扇をゲット、午後はよみうりホールで『談志一門会』かな(笑)。

追伸 
第46回オトナ寄席!6月18日『立川生志』!午後7時より。
琥珀亭0942・38・0570
是非!

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落語スズメ 第五十二回 「圓生争奪戦!」 

松田 一成

三遊亭の大名跡『圓生』を誰が継ぐかと新聞、テレビこぞって報道していたのでご覧になられた方も多いだろう。ことの起こりは、例の『涙の圓楽さん』こと、その圓生一門総領弟子、五代目三遊亭圓楽発言。生前圓楽師が突然『圓楽は楽太郎に、圓生は鳳楽に継がせる』と。実はこの『圓生』、その名跡はだれにも継がせないとの覚え書きが5人の関係者(生きてらっしゃる方はお二人)のなかにありまして‥そのお一人が当の圓楽師。ええっっ、自分で決めておいて!キチンとしてお隠れあそべばよかったのですが、そのまんま。圓生は自分の総領弟子(圓生からすると孫弟子)鳳楽に継がせるとの話が一人歩き。とまあ、その話も圓楽一門の中では既成事実となっていたのですが、六代目圓生三十三回忌を前に、我慢ならぬと、六代目に一番かわいがられていた七番弟子、円丈師が参戦。かいつまむとこんな流れ。三遊亭鳳楽、ご存知ですか?実は鳳楽師、数年前まで八女の酒蔵で毎年落語会を開いてたのですよ。様子良さは一門きって、正統古典落語きっちりこなす本格派。三遊亭円丈、覚えていますか?縁の太い厚底の眼鏡をかけた顔の長い男。朽葉色の羽織にはなんとグリコのワッペン!ドッグフードを主食とし、名古屋弁をたくみに操る、どんな噺家とも違うかたち。新作の旗手として現在までの活躍はマニアならずとも世に多少知られているかと思うのですが、はて古典バリバリの三遊派からすると、少々違和感が拭えませんが…。それは円丈師もわかっていたのでしょう、どちらが圓生の名を継ぐのが相応しいか、お客様にきめてもらおうと。そりゃ、盛り上がります。歴史的瞬間に立ち会えるかもしれない、当日、会場となった浅草東洋館は大入り満員。鳳楽『妾馬』、円丈『居残り』と、どちらも圓生ネタで勝負。結果は……
 覚え書きに名を連ねた落語プロデューサー京須偕充氏がうまい。『お客を巻き込んだイベントとしては面白い。でも、候補の2人が60歳代では、とうがたった感じ』。夏にもう一度やるそうです。

追伸
第44回琥珀亭オトナ寄席『立川生志』!4月24日(土)午後7時開演
当日重大発表有り!
琥珀亭/0942・38・0570

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落語スズメ 第五十一回 「三平さんのこと」

 松田 一成

「パンダは何食ってんだろう?」「パンだ!」。先日久留米で『二代林家三平襲名披露興行』が行われた。見れなかったが、結構な入りだったと伺った。よかった。アタシが小さい頃はテレビに出てる落語家さんは、三平さんが一番だった。『昭和の爆笑王』『神風タレント』、とにかくすごい人気で、あのもじゃもじゃ頭にタキシード、右手を軽く握り、おでこにくっつけ「どうもすみません」。冒頭の小咄は、YMOのアルバム『増殖』より、その三平さんのパロディ、スネークマショー演ずるところの『林家万平』。このスネークマンショーというのは、なかなか残酷で、あのアバや麻薬で入国を拒否されたポール(牧ではありません)のネタなんかをやってて、それまで大正テレビ寄席とドリフしかしらなかったアタシにはかなり辛い笑い。とくに冒頭の三平さんのギャグは、あれだけ売れていた人が、嘲笑のネタにされてしまうという、もう人前で落語家が好きだなんて言えないと思い込ませるに充分だったようなセンスでした(ひょうきん族で念を押されました)。それから30年。その三平の名前が復活。嬉しい。三平さんごめんなさい。アタシは大好きでした。思春期の気恥ずかしさも手伝い、わざと『桑原茂一最高!林家、ダセー』とか言ってました。あなたがテレビに出てくるだけでぱっと明るくなって、笑みがこぼれる。「ヨシ子さん」「カラダだけは大事にして下さい」「もう大変なんですから」、落語は聞いた覚えはありませんが、ギャグが次から次に出てきます。下ネタはやらない、誰も傷つけない、芸人であることを忘れない。もじゃもじゃ頭をかきながら少しだけ困ったような顔をして、その場にいる人みんなを和ませる。後で知りました。亡くなる少し前に病院のベットの上で「ご自分の名前がわかりますか」と先生に尋ねられた時に「加山雄三です」と答えたそうですね。そこにいた全員が、この人は天才だと思ったそうです。その凄さを見た二代三平師はどうつないでいくのでしょうか。期待しております。三平さん、思い出したこと。

追伸 第43回琥珀亭オトナ寄席、3月19日(金)『祝!第47回なにわ芸術祭新人賞受賞!笑福亭風喬』ゲスト有り

琥珀亭 0942・38・0570
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落語スズメ第四十七回 「おそるべし、梅團治」

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松田 一成

 久留米市内某所、恒例『蔵之助、梅團治九州ツアー』最終日。今回の宿題は、両師匠、それぞれ一席ずつ「ネタおろし」ということだったらしい。橘家蔵之助師は、大阪の噺
『次の御用日』を東京に移し替え、桂梅團治師は、やる機会が無かったという『時うどん』を。前半後半でほぼ2週間、九州中20カ所近くで会を催した仕上げらしく、その最終日の控え室には、美味しそうな松露饅頭と不敵なオーラが漂っていた。桂梅團治、その風貌、日に焼けた若乃花、もしくは愛を語るジャイアンかと。そのジャイアンが背を屈めながらが高座に上がる。愛を語るジャイアンゆえ、目尻は下がり、瞳は確認できないくらいツブラ。多少持て余し気味のカラダを左右に振り頷くと、ことさら大きい丸組みの羽織紐がやたら目立つ。くすくすと笑いが起きる。梅團治師、ただにやにやしているだけ。これは反則です。この人は面白い人に違いないと、高座に上がっただけで会場中を納得させてしまった。『播州皿屋敷~お菊の皿~』。青山鉄山がお菊を袈裟切りにし井戸に投げ込む件は、下がった目尻が凄みに変わり、立て板に水とは江戸弁だけではないと思い知らされる名人芸。落語に戻ってからのギャップが余計におかしい。お後、蔵之助師負けじと、誰もが知っている『饅頭怖い』をこんなに笑う噺だっけと引っ掻きまわし、お中入り。蔵之助師
『次の御用日』おさらいの後、問題、梅團治トリの『時うどん』。東京の
『時そば』はもとはこちらが原型。兄貴分のからくりに気づいた主人公が、昨晩のやり取りを、まんま自分一人でしようとするから無理がある。忠実にやればやる程「なんか悪いものでも憑いているのか」と、うどんの屋のオヤジに気味悪がれる。劇中劇?(噺中劇?)、梅團治の一人芝居がエスカレート。笑った笑った、今年一番笑いました。『時うどん』がトリネタなんてとお嘆きの貴方に是非。落語の本質とはこういうものだと、梅團治師に力技でひねられた晩でした。

落語スズメ第四十六回「テレビにて」

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第四十六回「テレビにて」
松田 一成

三波伸介を久しぶりにテレビでみた。一緒に出演していた中村メイコが若い。お笑いオンステージの再放送をやっていたのだ。アタシにとって三波伸介といえば、多分最初に見たコントのイメージが痛烈で、子供の頃はこの人のことをずっと『プレスリー』だと思っていた。ほどなくして誤解は解け、日曜日男。笑点史上最強の大喜利司会者から、満点パパの○を沢山くれるおじさん。20年程以前に、そのプレスリーを学園祭でみたことを思い出した。すり鉢状の大教室をステージに仕立て、怪しげな歌謡ショーが始まる。お父さんの古いLPでしか聞いたことのないようなムード音楽。バックコーラスのお姉さんがたのトップレスショーもあり、満員の学生で大盛り上がりであったのだが、その楽団のボーカルが、件の『プレスリー』そっくりだったのだ。恐ろしく歌の上手なお洒落さん。でもなんだかインチキくさい男。パブロ三波こと三波伸介の長男『三波伸一』だったのである。共通の友人がいたので、気にもなり噂も聞いていた。器用で、役者もこなし、映画やテレビにも出演していたらしいが、放浪癖が収まらず、なかなか落ち着かなかったらしい。しかし現在は喜劇『萬天館』の座長をつとめ、三波伸介一門会は毎回好評。喜劇役者として地道に活動中。かなり前置きが長くなったが、今年、そのその三波伸介が復活する。三波の27回忌に会わせ、伸一が二世『三波伸介』を襲名するそうだ。懐かしくなり、いろんなことを思い出して、たまにテレビは見るもんだと少し思った。

落語スズメ第四十五回「オトナ寄席初席“立川生志”」

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松田一成
第四十五回
「オトナ寄席初席“立川生志”」

 『愛だろう、愛』。多分お酒のCMだったと思うが、久しぶりに思い出した。第32回オトナ寄席『立川生志』。初席ならではの陽気に、出囃子『あじゃら』はぴったりだ。左三崖松の黒紋付に羽織、袴、立川生志登場。正月の挨拶が、久しぶりの高座だと詫びた後、マクラがよかった。F食堂のチャンポンの話。この高座に上がる、ほんのさっきの話。人気店ベスト10とか、ここがオススメ筑後の銘店とかいったものではもちろんない。わずかな滞在で、ここのおやじの人生を垣間見てしまった自分と、客との人間模様。酒を呑む音、フライをかじる音、チャンポンをすする音、断片的に聞こえる会話。「妻が早う呼びにこんけん一人でやりよりますとよ」「ごめんね、不味かとじゃなかけん、ビールばのみすぎて入らんごとなった。とっとかるっとなら、とっとってもらうばってん」。たまたま入った自分があまりに異質であったことに気付くが、そこが商売柄、興味となってしまう。キャベツの細かさや、BGMの全くない店内、自分にとって疑問でしかなかったものがF食堂の3人の老人を観察しつづけることによって得た、それが必然だとの理解。それこそが人間の営みではないかと感じ始め、居心地の良さに昇華したこと。ついに、そこは旅人の心を射止め、立川生志は常連になるべく決意したことを爆笑うちに語っていたのだが、その生志師を見るお客さんの顔がいいのだ。商店街のなんのことはない一軒の食堂を熱く語る一人の噺家によって、自分の町を、いや自分自身を褒めてもらっているような気になってしまったのかもしれない。テレビやネットが日常ではない、あなたが今いる、そこがあなたの日常だし、それが自分自身だよと教えてくれたのだと思う。初席で聞かされたセコいチャンポン屋の話が、生志師の興味で、日常こそが美しさ持つ人情噺に変わったのだ。一席め『つる』中入り後『愛宕山』。見事。こんなに笑った愛宕山は初めてだ。そういえば、二席め前のマクラはさっきとは打って変わって、痛烈な派遣問題批判。これも愛かな(笑)。
追伸
第33回オトナ寄席2月6日完売御礼、第34回オトナ寄席『笑福亭風僑』3月21日(土)琥珀亭0942・38・0570是非!

落語スズメ第四十四回 「御慶」

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第四十四回 「御慶」
松田一成

 正月の寄席は賑やかだ。日頃、落語とは程遠い生活も、日本人のDNAをくすぐるのか、どこの寄席も超満員。晴れ着姿の女性が多いのはテレビ中継のせいだけではないだろう。上席(かみせき、1日~10日)と呼ばれる番組は、初席(はつせき)と呼び名が替わる。落語協会が上野鈴本演芸場、浅草演芸ホール、落語芸術協会が新宿末広亭、池袋演芸場の出番となり、顔見せ興行よろしく殆どの噺家、色物が出演、獅子舞も舞台にあがり、季節感満載の寄席風情。稼ぎ時とばかりに、普段入れ替えをしない新宿末広、池袋演芸場も完全入れ替えの三部構成(浅草は四部!)。上野鈴本は全席指定、元旦から五日まで15番組のチケットが去年のうちに全て売り切れていた。今年上野の主任(トリ)は柳家小三治。そこに繋ぐまでの二時間半になんと、噺家14人、色物8組が出演。単純計算しても、持ち時間8分弱、赤ら顔の芸人達が掛け持ち、掛け持ちで、舞台を上手から下手にニコニコしながら横切るだけとの噂も頷けます。半可通に言わせると、正月の寄席なんかに行くもんじゃないということでしょうが、このときに見ないと、次は又来年という噺家さんがいるもの事実。芸の世界は厳しいのです。それが終わると、オトソ気分も多少抜けた二之席(11日~20日)。協会、芸協、寄席の出演が逆となり、普段通りの昼席、夜席、21日より下席を迎え、新しい一年が始まります。元旦の朝、出番前に一門が集まり、軽くお屠蘇を済ませると、先輩真打より、前座、二つ目全員にお歳玉が配られる。このときばかりは出世の早かった噺家は身の不運を嘆くそうだ(笑)。寄席には出てやらない(笑)落語立川流では家元談志の家に集まり、前座、真打の区別なく有り難くお歳玉を頂戴し、その後、談志を先頭に一門全員黒紋付の羽織袴姿で根津の権現様へのお参り。晴れがましさこの上なく、地回りのヤクザも道をあけるというのは新真打S師匠の弁。談志一門でよかったと思える数少ない一日だそうです(笑)。以上、芸人正月風景。今年も宜しくおねがいします。
第32回オトナ寄席1月9日完売御礼、第33回オトナ寄席『立川生志』2月6日(金)琥珀亭0942・38・0570是非!

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